はじめに

今回、予防と健康管理ブロックでアスベストに関するビデオをみた。アスベストと聞くと中皮腫を引き起こす発がん性物質で建築材料に使われていた。程度の知識しかなかった。そのためこのレポートによってもっとアスベストについて詳しくなろうと思う。

レポートのキーワードの概要

今回選んだキーワードは「アスベスト」と「胸膜プラーク」である。

「アスベスト」は耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ安価であるため、日本では「奇跡の鉱物」などと珍重され、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきた。しかし、空中に飛散した石綿繊維を肺に吸入すると約20年から40年の潜伏期間を経た後に肺がんや中皮腫の病気を引き起こす確率が高いため、2006年現在では「静かな時限爆弾」などと世間からおそれられている。

日本では1970年代以降の高度成長期にビルの断熱保熱を目的などにアスベストが大量に消費されていたため、その潜伏期間が丁度終わり始める21世紀に入ってからアスベストが原因で発生したと思われる肺がんや中皮腫による死亡者が増加している。2040年までにそれらによる死亡者は10万人に上ると予測されている。また、アスベストが使用されたビルの寿命による建て替え時期が本格的に始まり、新たなアスベストによる被害が生まれてしまうのではないかと懸念されている。

 

「胸膜プラーク」は胸壁の内側の胸膜(壁側胸膜)に生じる局所的な肥厚で、肉眼的には表面に光沢のある白色〜象牙色を呈し凹凸を有する平板状の隆起として認められる。通常アスベスト(石綿)暴露から 20 年以上を経て、胸部レントゲンで認められるようになる。胸膜プラークは過去における石綿暴露の重要な指標であり、石綿小体とともに肺がんや中皮腫の労災認定の際の重要な医学的所見である。

 

論文の概略

上記の2つのキーワードから「アスベスト肺の臨床診断 ―慢性型の寛質性肺炎との鑑別について―」と「胸膜中皮腫の画像所見 ―特に早期病変についてー」の二つの論文を選んだ。

 

「アスベスト肺の臨床診断 ―慢性型の寛質性肺炎との鑑別について―」

アスベスト肺の診断は十分な職業暴露、胸部X線所見と他疾患の除外で診断される。鑑別診断として慢性型の間質性肺炎、他の塵肺などが重要であり、特に突発性肺線維症との鑑別が重要である。昔までさかのぼる詳細な職業暴露暦の聴取、胸膜プラークの有無の確認が基本であるが、高分解能CT、気管支肺胞序洗浄液、病理所見が診断に有効である。高分解能CTでは、アスベスト肺で比較的よく認められる所見の組み合わせが診断に有用である。

アスベスト肺の臨床所見

多くの場合、暴露後2030年たってから症状を認める。最初に認められる症状は、潜在的に発症する労作時呼吸困難、咳、痰、喘鳴が認られる。重症例では浮腫などの肺性心の症状と認める。喀痰検査でアスベスト小体を認めることがある。

呼吸機能検査では、肺の要領減少に伴って拘束性障害を認める。拘束性障害は胸膜病変の有無にも影響される。また拡散能障害も認められる。

 

アスベスト肺の画像所見

通常、暴露から10年以上たって胸部X線上、両側下肺野に不整形陰影を認める。不整形陰影を主体とし、初期には両下肺野、特に肋骨横隔膜角にすりガラス状陰影、微細な線状、網状影を認める。進行すると中肺野、上肺野へと広がり、線状・網状影も粗大となっていく。心陰影は不明瞭となり、蜂窩肺を認める。しばしば、びまん性胸膜肥厚や胸膜プラークを認める。

 高分解能CT(HRCT)は、一般にびまん性肺疾患の診断に有用である。アスベスト肺のHRCT所見として、@線維化所見として、牽引性細気管支拡張、気管支拡張、小葉内間質の肥厚、不整な小葉間隔壁の肥厚、不整局面を認める、A進展例で蜂窩肺、B早期例で細気管支周囲の線維化を反映し胸膜下粒状分枝状像、C胸膜下線状像、D壁側胸膜肥厚あるいは胸膜プラーク、E肺実質内帯状像、特に臓側胸膜肥厚を伴う、F早期例では異常は背側、肺底部に認める、Gすりガラス様陰影を認める。

 なおアスベストにより無気肺硬化型の線維症を生じ、上肺野優位な病変を認める場合もある。また胸水、肺がん、胸膜中皮腫、円形無気肺を認めることもある。

 

 

気管支肺胞洗浄(BAL)

 BALでアスベスト小体を1/ml以上認める場合、アスベストの職業性暴露の可能性がある。BALの総細胞数は増加し、細胞分画では軽度好中球と好酸球増多を伴うマクロファージ優位な所見を認める。

 

アスベスト肺の病理所見

 アスベスト肺は初期には呼吸細気管支およびその周辺の線維化に始まり、隣接する終末細気管支から肺胞に広がる。進行例では下肺野を中心に蜂窩肺が出現する。しばしば胸膜肥厚を認める。アスベスト肺の診断にはこれらの組織像に加え、1cm2の肺切片の中にアスベスト小体が2個以上認められるか、被覆されないアスベスト繊維が有意に認められることが必要とされている。労災の認定基準では、胸膜プラークかアスベスト小体のどちらかがあればアスベストによる病気と判断される。

 College of American Pathologistsの委員会では、アスベスト肺の組織学的重症度と広がりを表のように分類している。

重症度のグレード

 グレード0:細気管支周囲の線維化なし。

 グレード1:初期の線維化、少なくとも1つの呼吸細気管支壁の線維化、肺胞隔壁     や隣接する肺胞への進展はあってもよい。呼吸細気管支の肺胞壁と肺胞道に認めるも、それ以遠の肺胞には認めない線維化。喫煙による肺隔炎と炎症に類似する。

 グレード2:肺胞道and/or隣接する2つ以上の肺胞に至るより重症な線維化。隣接する細気管支との間に正常肺が残存。

 グレード3:少なくとも2つの隣接する細気管支の間の肺全体が侵されるような、細葉全体の高度で融合した線維化。幾つかの肺胞は完全に通常閉塞する。

 グレード4:蜂窩肺と実質内の1cm以上大きな拡張腔。肉眼でも確認できる。

広がりのグレード

 グレードA:ときに細気管支が侵されるだけ。ほとんど正常。

 グレードB:グレードAと半分の間。

 グレードC:細気管支の半分以上が侵される。

 

 

アスベスト肺の診断

アスベスト暴露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会 報告書によると、アスベスト肺とは以下のように示されている。

(1)   胸部X線所見で、両側下肺野の線状影を主とする異常陰影を呈し、しばしば両側性の胸膜プラークやびまん性胸膜肥厚を伴う。

(2)   アスベストの職業暴露の証拠

(3)   持続性の両側肺底部の吸気性捻髪音

(4)   拘束型換気障害を主とする肺機能異常

(5)   他の類似疾患やアスベスト以外の原因物質による疾患を除外する。

この5つの要件のうち(1)、(2)、(5)は必須。

 胸部CTにて間質性に陰影を認める場合でも、胸部X線正面像で1型に満たないものは、じん肺法ではアスベスト肺ではないと見なされる。明らかなアスベストの職業暴露暦のない、アスベスト肺様の胸部X線所見に遭遇した場合には、アスベスト肺以外の疾患を疑うべきとされている。アスベスト肺は高濃度のアスベスト暴露によって発生する疾患であり、最近では蜂窩肺を呈するような進行したアスベスト肺を診る機会は少ない。軽度のアスベスト肺の診断に際しては胸部HRCTの上述の所見が参考になるものの、決め手とはならない。むしろ、アスベスト以外の間質性肺線維症との鑑別には、胸部CT検査での胸膜プラーク所見のほうが重要である。

 

アスベスト肺と慢性型の間質性肺炎の鑑別

アスベスト肺の鑑別すべき疾患には、他のじん肺など多くのびまん性肺疾患が挙げられる。じん肺症の中では、アルミニウム肺、mixed dust pneumoconiosisはアスベスト肺に似た胸部X線像を呈するが、職業暦の詳細な聴取により鑑別が可能である。他のびまん性肺疾患として、間質性肺炎の中でも膠原病肺、慢性過敏性肺炎、特発性間質性肺炎、[IPF、非特異性間質性肺炎、間質性肺疾患を伴う呼吸細気管支炎など]が挙げられる。

 

IPFと鑑別困難なアスベスト肺の問題点

アスベスト暴露暦を除くと、臨床経過、画像的にIPFと区別できない症状が存在し、またアスベスト肺の中にもIPF同様急性増悪する例の報告もある。病理学的に胸膜病変のない症例の中に、IPFで認められる病理パターン、通常型間質性肺炎に酷似する例があり、組織学的に細気管支周囲線維化を欠如する場合もある。そのような場合、アスベスト小体沈着も概して軽度である。ヘルシンキクライテリアではアスベスト肺の定義を単にびまん性線維化としたため、元来アスベスト肺に特徴的な、細気管支周囲線維化がない場合も含まれる可能性がある。疾患が非特異的なものとして定義され、特異性を粉塵の定量化と閾値の設定に求めている。その結果、間質性肺炎に過剰なアスベスト暴露を伴う疾例も、アスベスト肺と認識されるようになっている。胸部X線所見と職歴だけでアスベスト肺と診断されながら、臨床経過はIPFと変わらない場合もあり、患者の管理、治療には注意が必要であろう。

 ATSでは、IPFなどの間質性肺炎でもアスベストの暴露を受ける可能性があり、明らかに濃厚なアスベスト暴露がないのに1年単位で急速に症状や画像所見が悪化する場合、アスベスト肺よりIPFである可能性があるとも述べている。

 

おわりに

アスベスト肺の診断は十分な職業暴露、胸部X線所見と他疾患の除外で診断される。鑑別診断として慢性型の間質性肺炎、他のじん肺などが重要であり、特にIPFとの鑑別が重要であるが、鑑別困難例も指摘されている。初期病変、非典型例ではHRCTBAL液、病理所見が診断に有用である。特にHRCTでは、所見の組み合わせの検討が診断に有用である。

「胸膜中皮腫の画像所見 ―特に早期病変について―」

要旨

 胸膜中皮腫の画像所見の特徴は、胸水を伴う胸膜不整と腫瘤形成である。初期の症例では、原因不明の胸水のみを認め、胸膜不整をほとんど認めないものも存在する。早期診断には積極的な胸膜鏡下胸膜生検が必要であるが、適切に生検症例を選択するためには、画像上アスベスト暴露の根拠となる胸膜プラークの有無や異常所見が顕在化しやすい縦隔胸膜を含め、軽度の胸膜不整に注意する必要がある。

 

胸膜中皮腫の画像診断

 中皮腫は胸膜、心膜、腹膜、精巣鞘膜などに生じ、胸膜が最も頻度が高い。8090%程度以上がアスベスト暴露によるとされており、低濃度暴露でも生じ、暴露後40年程度経て発症することが多いが、10年程度で発症する例もある。予後は非常に悪く、上皮型胸膜中皮腫は12ヶ月、肉腫型は6ヶ月程度で、2年生存率が30%程度である。

 画像診断には、胸部X線写真、CTが従来から主に用いられ、最近ではMRI、そしてFDG-PETも用いられる。

 胸膜中皮腫の胸部X線上の典型像は、片側性の胸水と結節状変化、腫瘤状変化、凹凸不整などを伴う片側性のびまん性胸膜肥厚像である。(図1)胸水を伴う症例が約80%ある。発見時に胸水を認めない症例も存在するが、そのほとんどで経過中に胸水を合併するといわれている。アスベスト暴露所見として、アスベスト低濃度暴露でも発生する胸膜プラークを伴う症例は多いが、高濃度暴露によるとされている石綿肺を伴う症例は20%程度と少ない。

 胸膜中皮腫の典型的CT像は片側性胸水、広範なびまん性の不整結節状胸膜肥厚像である。病変は肺を環状全周性に取り巻き、葉間胸膜にも進展し、不整な葉間胸膜肥厚像や腫瘤を形成する。(図1)びまん性不整胸膜肥厚を呈する頻度も多いが、ときには部分的に胸膜壁への高度浸潤を伴う腫瘤を形成するような症例もある。(図2)




 




 


この4段階の胸膜所見と、胸膜中皮腫のInternatinal Mesothelioma Interest Group(IMIG)によるTMM分類のT分類を対比すると、良性病変も十分考えられる程度の軽度不整までが22例(18.8%)で、その他95例(81.2%)はCT上悪性を疑う高度の不整像を呈していた。

 このように、胸膜中皮腫をはじめとした胸膜悪性病変を疑う「高度不整」、「腫瘤形成」を呈する症例があわせて95例であるのに対し、はっきりとした悪性所見を呈さない「不整なし」から「軽度不整」像を呈する症例があわせて22例であった。これらの「不整なし」から「軽度不整」症例はT1症例が大部分を占めていた。外科的切除などでより良好な予後が期待できる早期の胸膜中皮腫を診断するには、胸膜の軽度不整に留意し、不整の全くない症例も存在することを認識する必要があると考えられた。

 これらの結果を踏まえて、胸膜中皮腫初期像を診断するにあたり、留意すべきを思われる事項を示す。

 

1.消退しない原因不明の胸水

 胸膜中皮腫の初期像は非特異的なごく軽度の胸膜不整であり、ときには画像上明らかな不整を認めない症例も存在する。このような画像上全く不整がないような症例は画像診断の限界ではあるが、予後の悪い胸膜中皮腫を早期に診断し、予後を向上させる可能性があるという点で、この段階で胸膜中皮腫を診断することが重要である。原因不明の胸水が続く症例では、胸水細胞診で中皮腫の診断が得られれば問題ないが、がん性胸膜炎に比して細胞診での診断が難しいため、積極的に胸腔鏡にて胸膜を観察・生検し中皮腫を除外する必要がある。

 

胸膜プラークの有無

 原因不明の胸水症例の中でより中皮腫の可能性が高いと判断する根拠として、画像的には胸膜プラークがある。胸膜プラークは胸膜肥厚斑または限局性胸膜肥厚とも呼ばれ、胸膜中皮腫同様に低濃度アスベスト暴露によっても生じる。わが国においては胸膜プラークはアスベスト暴露によってのみ生じるとされているため、胸膜プラークはアスベスト暴露の医学的指標として用いられている。

3.縦隔側胸膜不整

 CT上、胸膜中皮腫において異常所見の頻度が高く、比較的初期から病変をとらえやすく、特に注意すべきなのが縦隔側の胸膜不整である。胸膜中皮腫の多くは壁側胸膜由来のびまん性病変であるが、縦隔側以外では壁側胸膜は胸壁の筋肉と接しており軽微な変化が顕在化しにくいのに対し、縦隔側では壁側胸膜は直接縦隔脂肪に接しているためその不整像をとらえやすいと考えられる。Metintasらは、環状胸膜肥厚、1cm以上の壁側胸膜肥厚、縦隔胸膜肥厚は悪性腫瘍の胸膜転移よりも胸膜中皮腫でより認められると報告しており、その鑑別に有用としている。

 

まとめ

今回のレポート実習でアスベストと胸膜プラークについて調べた。2つの論文を読んだが書いてあることが難しくて半分も理解できていないと思うが多少は詳しくなったはずである。胸膜プラークと聞いてレントゲン写真に白いもやを見ても「どうしてどうなったため白いもやが見える」のか、論文を読んでいく中でわかった。これから日本では高度経済成長期にたてられたビルの老朽化による取り壊しなどでアスベストに暴露される人が増えるかもしれない。そのとき必要になることはアスベストによってできた中皮腫をできるだけ早期で発見することだと思う。そのためには、画像診断が重要で、その画像から得られた知識からどのような症例が考えられ、その症例の可能性があるから他に何をしようということが重要だと思う。これから学んでいく中で将来必要な知識を大切にし、確実に診断できるような力をみにつけるようにがんばろうと思う。